論 一覧   ホーム


乱世の時代に生きる

 現代は乱世の時代。政治・経済・社会の良識や古くからのしきたりはぶっ飛び,高度成長の証だったはずのバブルは崩壊し,情報は低俗化かつ氾濫し,戦争という政治ゲームに代わりテロリズムが横行し,環境破壊と地球温暖化が進行中である。何も考えず,何をしなくとも笑って過ごせた古き良き時代は終演した。このような時代に,我々はどう生きていけばいいのか。

進化論で有名なダーウィンの言葉に「生き残る種とは,もっとも知的なものでもなく,もっとも最強のものでもない。それは,もっとも環境に適したものである」というのがある。古代の恐竜も環境の変化に適応できず,滅んだ。一方で,微生物は地球誕生直後から非常に厳しい環境を生き抜き,抗菌薬が登場してその力を落とすかと思いきや,「耐性」という機能を獲得してしぶとく,いや以前よりも粘り強くなって生き続けている。

生物は生存するために,環境に適応し,生体に有害となるものから自己を守るために,外界の刺激を感知し,その情報を細胞内に伝達するシステムが必要となる。細菌の場合,環境感知・応答システムとして,二成分情報伝達系(環境感知センサーによりその情報を細胞内制御因子に伝達する)を保持していることがわかってきた。制御因子は転写制御因子であり,細菌の生育に有利となる遺伝子発現の制御に深くかかわっている。

そのことは,この乱世の現代に生きる我々にも当てはまるように思う。現代の厳しい環境の中で生き残るには,どうしてもそれに適した生き方をしていかねばならない。外界で生じた変化を早く感知し,眠ったままの遺伝子を発現させなければ,これからの困難な時代を乗り越えることができない。「どうにかなるさ」という甘い気持ちでは,もはやこの乱世の時代を生き抜くことは不可能なのだ(*1)。となれば,どのような情報をどのように入手し,入手した情報を内在するどの遺伝子にどのように伝え,それをどのように発現させていくのか,ということが問題となる。

*1 誤解のなきよう断りを入れておくが,私は現代の問題や物事の進行速度に適応できない人にダメだという烙印を押しているのではない。むしろ,そのような人々こそが人間本来の生き方であるだろう,と思ったりもする。ここでいう「適応」とは,この厳しい時代の中で,その流れに立ち向かっていくことを指す。

(平成14年6月27日)